思い出す、君の声を、存在を
思い出す、あなたの温もりを、優しさを
愛とか恋とか、そういうくだらない感情?
この感情の答えは知っている、でも気づきたくないだけで
運命恋歌 第十二.一廻
眠い。
人間の最大欲求が身体に襲いかかる。
自分の目の前にいた「彼」は、口唇を離すと再びを抱きしめた。
首筋に顔を埋め、片方の手で髪を優しく梳く。
ついさっきまではこの人は誰なのだろうと考えたが、眠いのですぐにやめた。
――兄上だったら良いな、なんて贅沢もほんの少し考えたけれど。
「…君、名前は?」
「……?」
名前を聞かれたことに、何を今更、と思う。
そのせいか語尾が何故か上がってしまった。
それに対してだろうか、彼が少し笑ったのを感じた。
「姓」
「……」
比較的まだ慣れない名字を口にすると、彼は安堵したように息を吐いた。
ぽん、との頭を撫でた。
それを続けると、彼女が眠たそうに身体を動かした。しばらくして安定した呼吸が聞こえる。
眠ってしまったのだろう。
「…、か」
顔をしかめて頭の中を探った。
昔、ちらりと耳にしたことのある家だ。麻倉と同じく、陰陽の家だとかで。
――彼女がまた、シャーマンの家に生まれたのは偶然なのだろうか
思うが、とりあえずその考えは頭から振り払う。
…一番の問題は、彼女が昔の記憶があるか否かだろう。
昔と同じ名前なあたり、本人と考えるのが妥当だろうか。
…彼女がどのような方法で転生したのかは分からないが。
そこまで考えて、彼女を離した。
『 ……だぁれ? 』
…先ほどの彼女のこの問いは、寝ぼけていたからだと思いたい。
梳いていた彼女の髪をすくい、口づけた。
「名前くらい、呼んでよ」
―すぐに来るから
撫でるように触れてみた頬は昔より冷たくて、そのときに初めて気がついた。
彼女の命の灯火は脆い。
…きっともう、長くない
直感的にそう感じる。
そのとき、無機質な機械音が響いた。
「ちっ」
その音の源は腕のオラクルベルだ。
――重要なことでなかったら無視してやる
ところがそういうわけにもいかなさそうだ。
名残惜しいが、立ち上がる。
可能ならば、このまま攫って無理矢理にでも傍に置いておくのに
けれど、さすがにこの行為には不都合が生じる。
自己に対してわずかな苛立ちを覚えつつも、彼女の寝顔に背を向けた。
―――きっとまた、迎えに来るよ
だからそのときまでどうか生きて、待っていて
初めて、一抹の寂しさを感じた。
Bext
Next