もう少しだけ、夢を見ようか

 変えたい過去を、見たくない現実を、望む未来を


 それから、地獄に棲む天使へ魂を売ろう


 運命恋歌 第15廻


「路上でケンカして怪我したって聞いて来たら、」

「…うん。
 目を覚まさないんだ、葉くん」

 与えられた病室の扉を閉めつつ、が呆れた顔をする。
 室内は、眩しいほどの白に統一されていた。

「……あのう、さんもシャーマン…なんだよね」

「ああ、うん」

 いつだっただろう…葉が阿弥陀丸を持霊にした頃だったろうか。
 自分が葉と同じシャーマンであることをカミングアウトしたに対し、まん太は未だ半信半疑だった。

 かたん、とが葉の眠るベッドの隣にあるイスに腰掛ける。

殿…お主の持霊は一体何なのでござるか?』

 阿弥陀丸が位牌から姿を現し、に問う。
 眠ったままの葉に対する不安を少しでも紛らわしたいのだろう。

「うーん…何なんだろうね?
 何だと思う? 当ててみてよ」

 が、恐らく無意識のうちにいつかと同じ言葉を繰り返す。
 疑問符を頭に浮かべるまん太と阿弥陀丸を尻目に、が綺麗に笑む。

「葉くんが目覚めたらまとめて説明してあげる」



「じいちゃんぶたないで――――――ッ!!!」

 そう叫び、頭を庇いながら目覚める葉。
 そんな彼の目に、驚いた表情のまん太と感涙する阿弥陀丸、ほっとしたような表情で安堵の息を吐いたが映った。

「夢見が悪かったようで」

「おお…懐かしい夢だった」

「どんな夢だったのさ」

 が笑い、葉が答え、まん太が問う。
 よくある会話パターンだ。

 がふっと笑みを零す。
 葉が近くの小机に手を伸ばし、ヘッドフォンを頭にはめた。

「蓮が言ってた『シャーマンの王』って、シャーマンキングのことだったのか」

『何と!!』

「…え、そっから?」

 驚く阿弥陀丸とは対照的に、はまた呆れた顔をする。
 彼曰く、シャーマンキングになるための修行が、いつしか修行するための修行になっていたとのこと。

 やっぱりどこか抜けてる……

 がそう思った刹那、背後から凛とした声が響いた。

「うるっさいわね。
 ケガして入院したって聞いたから、わざわざお見舞いに来てやったのに」

 背負い棒に風呂敷包み、赤いバンダナ黒ワンピース数珠とつっかけ。
 不機嫌そうに目を吊り上げた少女は、戸口に堂々と立っていた。

「あたしはシャーマン。イタコのアンナ。
 麻倉葉の許嫁よ」

 ――要は、この娘が麻倉の嫁か。

 が鋭くアンナを見据える。
 そして、薄く口唇を吊り上げた。
 麻倉も、打倒ハオのために必死なのだろうか。

 見るところ、アンナは見かけ以上の力を持っているようだし―――…

「葉王………」

 上の空で、が呟いた。



「で、アンタは何なのよ」

 まん太と葉を病室から追い出し、阿弥陀丸を縛りつけた後アンナが問う。
 その視線は、まっすぐへと向けられていた。

「アンタもシャーマンでしょ。
 葉に近づいた理由は何」

「理由なんてないよ」

 がへら、と笑う。

「仮に理由があったとしたら、実行するチャンスは山ほどあったもの」

 表情に似合わず冷たい声音で紡がれた言葉に、アンナがぎゅ、と口唇を固く結んだ。

「……アンタも、シャーマンファイト参戦者?」

「まさか」

 迷いつつも問われたアンナの言葉に対し、は柔らかく否定する。

「だって、私の望みを叶えてくれるのは全知全能の王じゃないから」



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