信じて、いるから
空は相も変わらず 青く
運命恋歌 第16廻
「お邪魔しまーす」
夏休み。
空は青が広がり、蝉が元気に叫んでいる。
郊外にある元民宿―炎の引き戸を開けると、そこには地獄の痕跡がまざまざと残っていた。
「あら、いらっしゃい」
「……よく来たな」
居間の襖を開くと、テレビを見つつくつろぐアンナと、修行の合間の一息中の葉がいた。
まだ昼だというのに、葉の顔は世界の終わりを見てきたように沈みきっている。
「…よ、葉くん大丈夫?」
が少々口元を引きつらせ、言った。
「…おお」
「アンタ、くつろいでる暇があるならロードワークにでも行ってきなさい」
「……おお」
バリン、とせんべいの砕ける音が部屋に響く。
消え入りそうな葉の声は、テレビの音にかき消されアンナの耳には届かなかった。
「返事が小さい!」
「うぃっ!」
「…夏休み中ずっとあんな感じなの?」
「そうね。
まあ今までずっと楽してたみたいだし、良いんじゃない」
葉が重い腰を上げて今から出て行った後、が葉の席に腰をおろす。
アンナのせんべいを一枚頂戴し、一口口に含んだ。
――アンナさんおいしそうに食べてるけど、私はサラダせんべいのほうが好きだな……
「まん太くんとかは? 来ないの?」
「葉が
炎の場所教えてないんじゃない。
あいつ、めんどくさがりだから」
「ふーん。
私、葉くんのところに行ってくるね」
はそう言い、席を立った。
とは言ったものの、ロードワークに出ちゃったんなら探すの面倒だな。
そう考え、とりあえず玄関に足を向ける。
この辺はアンナの手が回ってる霊も多いし、彼らに聞けば良いか。
そう思い直し、玄関の靴に足を伸ばした。
…否、伸ばそうとした。
「くぎゃっ」
「えっ!?」
何かが潰れたような音が足元でし、思わず足を引っ込める。
見ると、玄関に腰を下ろしていた葉が頭を押さえていた。
――…もしかして、思いっきり蹴っちゃった?
考えに耽っていたため、足元に注意を全く向けていなかった。
「…よ、葉くん大丈夫?」
ごめんね、と謝りつつかがみ、ぽんぽんと葉の頭を撫でる。
「ああ、…大丈夫だけど、あんまりここで騒ぐと…」
葉の声がだんだんと小さくなっていく。
しばらく考え込んだかと思うと、いきなりの腕をつかみ勢い良く炎を出て行った。
「な、何!?」
普段のユルい雰囲気からは想像もつかない剣呑さを出している葉に、少なからず戸惑う。
葉に腕を引っ張られ、この夏鍛えられたのであろうスピードで連れてこられたのは、元民宿炎から少し離れた公園だった。
「だ、大丈夫…? 葉くん」
少し息を切らせつつ、が葉を覗き込む。
彼は辺りをきょろきょろ見回し、長いため息をついた。
「もうこの夏ずーっと特訓だぞ?」
「………うん、分かる」
葉の、ふいに出た言葉に動揺もせず、が明らかに他人事という顔をしつつ頷く。
葉はもう一度大きいため息をつき、片方のブランコに腰かけた。
「…で、玄関からいきなり逃げ出した理由は?」
「………アンナの来る気配がしたから」
の問いに素直に答える葉。アンナの前では恐らく絶対見せないだろう素直さだ。
は葉の答えに思わず失笑した。
私はまったく気付かなかったけどな……
長年の勘ってやつ――?
「要は、玄関でぐずぐずしてたところをアンナさんに見つかりたくなかったと」
「正解」
呆れ顔で葉の言葉の続きを引き取ったに、葉が軽く笑みを見せた。
とりあえず、葉の隣のもう一つのブランコに腰を落とす。
そのブランコを軽くこぐと、キィ、と微かな金属音がした。
「でも、今私と一緒に逃げ出したことがバレたときのほうが怖いと思うけど」
「……それはそうだけどな」
とりあえず一番大切なのは、今が平穏なことだから。
葉がそう続け、空を見上げた。
「…まあ、アンナさんに告げ口するほど私も鬼じゃないけど」
「あんがとな」
葉が再度にっ、とに笑みを向ける。
そして、ふと言葉を零した。
「おいらの許嫁がだったら、もっとマシだったかもしれんな」
Bext
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