欠落、だろうか? ほんの少したりない

 正体まで、あともう少し


 運命恋歌 第20.5廻


 縁側を通ると、の姿があった。
 風呂上りのためか、浴衣を着、長い髪を結い上げている。

 声をかけようとしたが、少し躊躇い口を閉じた。
 夜空を見上げている朱里が、何故だかすごく遠くに感じたので。

 しかし気を取り直し、声をかける。



「葉くん」

 振り向いたは、いつもと同じように笑った。その笑みに、少しだけ安心する。
 とりあえずの横に立ち、隣に腰を下ろした。

「どうしたの?
 少し、落ち込んでるみたい」

「…おいら、人に嫌われるの苦手なんよ」

 若干の間を置いてから、の問いに答える。
 思えば、とこんなふうに話したことはなかったかもしれない。いつもふざけあっていたような気がする。

 そう思っての顔を見ると、何か疑問を抱いているような表情をしていた。―そんなに変なことを言っただろうか?

「どうして?
 他人を蹴落とす覚悟はあったんでしょ?」

「……」

「…ねえ、葉くん。
 本当に?」

 彼女の問いに、今度は答えられなかった。
 その理由を探しているうちに、急にに顔を覗きこまれた。思わず、怯む。

 ―和服と、本人も気付いていないであろう微かな冷笑が重なる。
 今まで会ったことのない、自分の知らない自身を垣間見たようだった。―そして感じる、ほんの少しの違和感。

「―…みんなが幸せな世界っていうのは、ありえないんかな」

 の問いに直接には答えず、口を開いた。

「んー…」

 答えなかったことを気にはしていないのか、が少し考え込む。
 そのことに、少しほっとした。

「可能か不可能かって意味なら、可能かな。
 幸せなみんなを集めて、不幸せなみんなを排除すれば成立する」

「!」

 ――それはあまりにも、何と言うか、残酷ではないか?

 そう思うが口にはしない。星を見上げているの横顔は、そんなことは微塵も感じていないようだ。

「私個人としては、ありえないと思う。
 うまく言えないけど、人間って、常に迫害の対象を探しているじゃない?」

「……」

 ―体験談、なのだろうか

 考えてみれば、彼女から自分自身の過去の話を聞いたことがない。
 マタムネとの関係や、『ハオ』と自分との関係も。

 そこまで思い、ふと自分の言葉に疑問を持つ。顔を上げてを見、口を開いたが先を越された。

「ありえないのか、って否定形で訊いてきたんだから、葉くんも心の底では…」

「そんな話どうでも良いわ。試合よ」

 の言葉を遮る形で、アンナが割って入る。
 …何だか初めて、アンナに救われた気がした。

「次の対戦が決まったわ。
 来週の日曜日、場所は、猪口浜外国人墓地
 こいつに勝てば良いの。さっさと予選突破を決めてよね、いちいち試合に付き合うの、面倒だから」

「……おお」

 オラクルベルを握りしめる。
 しかし何となく、気合いが入らなかった。あの違和感が、心に引っかかる。



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