インターホンの音で目が覚めた。


 運命恋歌 第26廻


 布団の中で頭だけ起こし、平日毎日お世話になっている目覚まし時計を見る。
 時刻は、16時。いくら休日というのにも限度がある時刻だろう。
 外は早くも暮れようとしていた。

 ぼす、と枕に顔を埋める。

 いくら16時だろうと、眠いものは眠い

 再び眠りの世界へと行こうとしたとき、またインターホンの音が響いた。

「…ああもう!!」

 がばりと起きる。
 寝癖も気にせず寝巻きのまま、玄関に向かった。



「どちら様ですか?」

 何様ですか? と問いたいのを必死に堪えてが迎える。
 しかし来訪者の顔を見る暇もなく、いきなり腕を掴まれ抱きしめられた。



 耳元で囁かれる。

 ―…その、声に、滲み出る優しさに、何とも言えない懐かしさを感じた

「…葉王…?」

 考えるよりも先に、口が動く。

 …そんなこと、滅多にないのに

 この、自分のいつもの調子を狂わされる感じ。
 いつもは嫌な筈なのに、今だけはすごく、……愛おしかった

 …そしてその愛おしさに惑わされそうになるが、自分の今の状況を思い出す。

 ―どこの誰かも知れない奴に抱き締められてんだぞ、自分!
 しっかりしろ!

 喝を入れ、抱き締めている彼を思いっきり突き飛ばした。

「…だ、誰…!?」

 彼は長い髪をかき上げて、笑顔で答えた。

「そんな声で僕の名を呼んどいて、誰とはひどいな、



 唖然としていると、彼は断りなしにずかずかと家の中に入っていった。
 その背中を見送ってから、はっと気を取り直し、後を追う。

「ちょ、ちょっと!」

「何?」

「何って…」

 が腕をつかむと、にやりと笑って彼が振り向いた。
 思わず呆れる。何て強引なんだ、この人。

 はあ、とため息を吐き出してから。が続けた。

「良いよ、適当に、座って」



 コーヒーを飲むか、と訊くと、彼は笑顔で頷いた。
 やかんに水を入れ火にかける。

 4人分の席は確かにあるのに、どこか空虚な感じが漂うダイニングテーブルに、彼は腰かける。
 は彼の正面のいすに腰を下ろして、問うた。

「で、どちら様ですか」

「分かってるくせに」

 頬杖をつき、余裕の表情でハオが答える。
 一呼吸おいてから、が顎をテーブルの上に乗せる。じとり、とハオを睨みつけてから続けた。

「何しに来たのよ」

「逢いに来たんだよ」

「…何で、今」

 目を伏せてが問うと、嘲笑っているのか馬鹿にしているのか、ハオが小さく笑った。

「恋しかったんだろ?」

 しゅんしゅんと、やかんが蒸気を吐きだした。



「僕にそばにいて欲しかったんじゃないの?
 違う?」

 から見れば意地の悪い笑みを浮かべて、ハオが言う。
 ――ここまでくれば聞き覚えのある言葉だ、確かに出雲で自身が言った、

「…違くない、けど」

 素直に認めるのは癪だったが、返す言葉が見つからなかった。…夢だと思っていたのは、確かだったので。
 照れくさいというか情けないというか恥ずかしいというか。

 とりあえず、沸いたお湯でコーヒーを淹れることにした。



 テーブルの上に湯気の立つコーヒーを置くと、ハオがちらりとを見上げた。

、…寝起き?」

「…だって休みだもん」

 顔をしかめてが返した。片手で寝癖のついた髪を梳く。

「…ふーん」

 もっとからかわれるかと思ったら、ハオは少しだけの寝巻きを見て、コーヒーを一口、飲んだ。



「麻倉葉、って知ってる?」

 が唐突に切り出すと、ハオが少し驚いたようにに視線を向けた。
 ―― 一応、ずっと気にはなっていたのだ。これだけは確かめたかった。

「…知ってるよ」

 一呼吸おいてから、ハオが続けた。

「僕の双子の弟さ」

「……双子?」

 オウム返しにが問う。まさか、そんなに近い関係だったとは思っていなかったので。

「よく似てるだろ?」

 はは、と笑うハオは、言われてみれば葉とよく似ている。
 しかし、纏っている雰囲気や口調は似ても似つかない。

「…じゃあ、私と同い年?」

「葉と君が同い年なら、そうなるけど」

 の問いに、ハオが眉を顰める。

「…君と葉はどういう関係なのさ?」

「クラスメートだけど?」

 ハオの問いに首をかしげつつ、が答える。
 ふーん、とハオが返した。…どことなく、不満げだ。



 そして、一瞬の静寂が訪れた。

 すると、

 テーブルの上に置いたままのの手に、ハオの手が重なった。
 指が絡まり、ぎゅ、と力がこもる。

 ハオを見上げると、彼は少し切なげな表情で、囁いた。

「…好きだよ、



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